リリース・テクニックでは最初に体感覚の手放しを学び、それ以降も多用します。なぜでしょう?その意味合いを私的解説します。


私たちは日々、様々な感情に振り回されて生きています。不安、怒り、悲しみ、あるいは「もっと欲しい」という渇望。これらの感情を手放し、本来の自由で穏やかな状態に戻るための強力なメソッド論として、レスター・レビンソン博士が教え、ラリー・クレーン氏が提唱した「リリース・テクニック」の体感覚のリリースがあります。

しかし、なぜ感情を手放す際に「頭で考える」のではなく「体の感覚」にアプローチするのでしょうか?

今回は、レスター博士の教えの根本と、脳と身体のメカニズムを交えながら、この手法の本当の意味を解き明かします。

1.すべての元凶は「分離した個人」という観念

レスター博士の教えの根底には、一つの壮大な真理があります。それは「私たちは本来、すべてと繋がった無限の存在(Oneness)である」ということです。

しかし私たちは、長い歴史と人生の中で「私は世界から切り離された、制限のある個別の存在だ」という強固な観念を作り上げてしまいました。この「分離感」こそが、あらゆる欠乏感や恐怖、そしてネガティブな感情の根本原因です。

では、「私は無限だ」「分離などしていない」と頭で思い込もうとすれば解決するのでしょうか?

残念ながら、それはうまくいきません。「分離した個人」という観念はあまりにも深く無意識に根付いており、直接引き抜くことはほぼ不可能です。

だからこそ、レスター博士は「感情を手放すことが基本になる」と説きました。根っこ(分離の観念)を直接引き抜く代わりに、そこから生い茂った枝葉(日々の感情や欲求)を一つ一つ手放していくことで、自然と大元にある制限のプログラムも解体していくアプローチを教えたのです。

ですから、博士の弟子のヘイルさんが教えるセドナメソッドの最初は感情の手放しから始まります。考えたり、深堀りせず、感情を手放すことをまず学びます。では同じく弟子の一人のラリーさんが教えるリリーステクニックはどうでしょうか?

2.感情とは「脳と身体の循環プロセス」である

ここで、私たちが「感情」と呼んでいるものの正体を、脳の仕組みから見てみましょう。

感情とは、単に頭の中だけで起きているモヤモヤではありません。実は「脳が身体の状態を変化させ、その身体の変化を再び脳が認識する」という循環プロセスなのです。

  1. 脳が外の出来事を「危険だ」や「嫌だ」と判定する。
  2. 脳が自律神経に命令を出し、心拍数を上げたり、胃腸を収縮させたり、胸の筋肉を緊張させる。
  3. その「胸がドキドキする」「胃が重い」という体の変化を脳が読み取り、「私は今、不安(怒り・悲しみ)を感じている」と認識する。

つまり、私たちが感情を自覚する時、そこには必ず「体感覚」が伴っています。感情の正体は、身体の物理的な反応なのです。

3.なぜ感情は「胸」や「お腹」に現れやすいのか?

体感覚の手放しを行う際、「胸やお腹のあたりにある感覚に意識を向けてください」とよく誘導されます。なぜ、感情は頭や足の先ではなく、主に「胸」や「お腹」の体感覚として現れるのでしょうか?

それには、明確な解剖学的・神経学的な理由があります。

胸や腹部には、脳と内臓をダイレクトに繋ぐ「迷走神経(めいそうしんけい)」をはじめとする、太い自律神経のネットワークが密集しています。

  • 胸部(心臓・肺): 脳がストレスや興奮の信号を出すと、自律神経は瞬時に心拍数を上げ、呼吸を浅くします。これが「胸のモヤモヤ」「胸が締め付けられる」「胸騒ぎ」といった感覚の正体です。
  • 腹部(胃腸): 腸は「第二の脳」と呼ばれるほど、独立した膨大な神経細胞のネットワークを持っています。脳の不安や恐怖の信号に対して極めて敏感に反応し、収縮したり血流を低下させたりします。これが「胃がキリキリする」「腹の底から怒りが湧く」「お腹が重く沈む」といった感覚を生み出します。

私たちの脳は、この「胸とお腹(内臓)で起きている物理的な変化」をリアルタイムでモニタリングし、それを「感情」としてラベリングしているのです。

3.体感覚のリリースは、感情の「循環を断ち切る」こと

ここまでの話を繋ぎ合わせると、リリーステクニックの真髄が見えてきます。

リリースを行う際、私たちは「なぜこんな気持ちになるのだろう?」「これは怒りだろうか?」と、感情を頭で分析したり判定したりしません。代わりに、胸やお腹のあたりに感じる「モヤモヤ」「重さ」「つかえ」といった『体感覚(エネルギー)』に直接意識を向けます。

なぜ体感覚に意識を向けるのでしょうか? それは、体感覚を手放すことこそが、実際には「感情の手放し」そのものだからです。

脳と身体が作り出す「感情のループ」の中で、身体に現れたエネルギー(感覚)を「ただそこにあるもの」として許可し、通り抜けさせて(手放して)しまいます。すると、脳へ送り返されるはずの「胸が苦しい=私は悲しい」というフィードバックが消滅します。

感情について考えたり、善悪を判定したりするのをやめ、ただ体感覚というエネルギーを手放す。これによって脳と身体の循環プロセスが断ち切られ、感情が私たちに与えていた影響力が完全に無効化されるのです。

おわりに:考えずに、ただ「手放す」

レスター博士は「感情を心(頭)でどうにかしようとするな」と繰り返し指導しました。心は制限そのものだからです。

不快な感情が湧き上がってきたら、頭で解決しようとするのをやめましょう。ただ、胸やお腹にある感覚に気づき、それを抑え込まずに歓迎し、そして開け放った窓から風が通り抜けるように、そのエネルギーを手放してみてください。

そのシンプルな「体感覚のリリース」の積み重ねが、やがて「分離した個人」という最大の観念をも解き放ち、あなたを究極の自由へと導いてくれるはずです。