リリーステクニックやレスター博士の話を聞いていると、ゴールと意図の違いについて迷うことがあると思います。薄っすらとわかっていても、説明が困難だと思っている人もいるでしょう。この2つの私的解説です。

リリーステクニックやセドナメソッドを実践していると、多くの人が突き当たる壁があります。それは「ゴール」と「意図」の違い、そして「ゴールを手放す」と言いながら「意図を持ち続ける」という矛盾した教えへの迷いです。

「ゴールを思い続けるのは執着ではないか?」

「手放したら叶わないのではないか?」

薄っすらとわかっていても、言語化するのは難しいこのテーマ。今回は、ラリー・クレーン、ヘイル・ドゥオスキン、そして創始者レスター・レビンソンの教えを統合し、この謎を解き明かします。

1. ゴールの真の目的:達成ではなく「掃除」

まず、全メソッド共通の認識として、ゴール設定の主目的は「その目標を達成すること」ではありません。

もしあなたがゴールを立てて、胸が苦しくなったり、「無理かも」という声が聞こえたりしたら、それは成功です。なぜなら、ゴールとは、あなたの潜在意識に隠れている「制限(エゴ・執着・抵抗)」をあぶり出すための「釣り針」だからです。

レスター博士は言いました。「ゴールに向かうことで、無意識下にある『嫌悪(aversion)』が浮き彫りになる」。

私たちは通常、これらのネガティブな感情(ゴミ)を持ったまま、見ないふりをして生きています。ゴールを設定することで、あえてそのゴミを表に出し、リリース(手放し)して消し去るのです。

ゴミが完全に消えた時、結果として現れるのが、ラリーさんが言う「Hootlessness(どうでもいい状態)」、あるいはレスター博士が言う「Effortless thought(努力のない思考)」です。逆説的ですが、「叶っても叶わなくても幸せ」という境地に至った時、障害物が消え、ゴールは向こうからやってきます。

2. 「考え続ける」ことのパラドックス

ここで最大の疑問が生じます。「レスター博士は『起きて欲しいことだけを考えろ』と言った。でも、ゴールを考え続けるのは『執着(欠乏)』ではないのか?」

この矛盾を解く鍵は、「思考のエネルギーの質」にあります。

Wanting(欲求・欠乏)の思考:「あれが欲しい(=今はない)」と考えること。これは「欠乏」を宇宙に宣言し続ける行為です。ヘイル氏は、これを「ヘッドバンキング(頭を壁に打ち付けるような無益な空想)」と呼び、戒めています。

Having(所有・確信)の思考:レスター博士が勧めたのはこちらです。「それは私のものだ」「すでにそうなっている」という確信(Conviction)です。

博士はこう言っています。「一度『それは私のものだ』と完全に確信したら、もう『欲しい』と願う必要はない。すでに持っているものを欲しがる人はいないからだ」。

つまり、ゴールについて考える時、苦しければそれは「欠乏」なので手放す。穏やかならそれは「確信」なのでそのままにする。これが答えです。

3. 「意図」とは何か?

では、今回のテーマである「意図(Intention)」とは何でしょうか。3人の指導者の視点を合わせると、その全貌が見えてきます。

① ラリー・クレーン:自動操縦を止める「決断」

ラリーさんは意図を「ミニ・ゴール」や「瞬間の決断」と呼びました。

私たちは普段、エゴの自動操縦(過去のパターン)で生きています。意図とは、パイロットが操縦桿を握るように、「今、私はこうする」と意識的に方向を決めることです。

「今は美味しく食べよう」

「この会議では、最高の結果を出そう」

「誰に対しても愛を持って接しよう」

常に意図し続けることで、エゴの自動反応を停止させ、本来の自分(ビーイング)でいられるようになります。

ちなみに、日本のマスターであった中村天風師は、「常に有意識で行動しろ」と教えていました。これも同じ教えです。

② ヘイル・ドゥオスキン:「許可」と「内なる所有」

ヘイル氏は、意図を「許可(Allowing)」という言葉で表現することを勧めます。「~したい(want)」ではなく、「私は自分に~を許可する」。

これは力み(努力)ではなく、ドアを開けて受け入れる感覚です。意図とは、必死に願うことではなく、内側ですでに「所有(Have)」している感覚を保つことです。

③ レスター・レビンソン:「努力のない思考」と「確信」

創始者である博士にとって、究極の意図とは「努力のない思考(Mere effortless thought)」です。

抵抗を完全に手放すと、思考は非常に静かになります。その静寂の中で、ふと「ああ、こうなるな」と思ったこと。それが最強の意図です。そこには「頑張ろう」という意志さえ必要ありません。ただ知っている(Knowingness)という状態です。

4. 結論:どのように実践すべきか

日常の中で「ゴール」と「意図」をどう使い分けるか、まとめましょう。

ゴール(朝晩の儀式):ゴールを設定し、出てくる「抵抗(無理だ、怖い、欲しい)」を徹底的にリリースします。これは「ゴミ出し」の時間です。

日常の手放し(Let go and let God):日中は、ゴールの達成方法(How)や結果への心配(When)を手放します。種を植えたら、掘り返さないのと同じです。

意図(瞬間の舵取り):しかし、ボーッとしてはいけません。

  • ベースの意図: 「承認・制御・安全の欲求よりも、不動心(静安)を求める」ことを常に意図します。

  • 行動の意図: その瞬間その瞬間、「私は素晴らしい一日を過ごす」「私はリリースすることを選ぶ」と、ポジティブな方向へ舵を切り続けます(ラリーの教え)。

  • 在り方の意図: 「それはすでに成された」という静かな確信、あるいは「自分にそれを許可する」という受容の態度を保ちます(レスターとヘイルの教え)。

ゴールを使って隠れているエゴを引き出し、解消する。

意図を使って、エゴの自動操縦を止め、本来の自分(ビーイング)として生きる。

そうすれば、あなたは「努力なし(Effortless)」に、必要なものをすべて受け取ることができるでしょう。

最後に、レスター博士、ラリーさん、ヘイルさんのゴールと意図の考えの違いを紹介しておきます。人が違えば、言葉の使い方は異なります。違いを理解しておけば、混乱は少なくなるでしょう。

1. ラリー・クレーン(アバンダンスコース)の視点

  • 特徴:実践的・行動的・バイナリ(二元論的)

  • キーワード: 「決断(Decision)」、「ミニ・ゴール」、「自動操縦の停止」、「舵取り」

  • 意図の定義: ラリー氏は意図を「アクション」として捉える傾向があります。「エゴの自動操縦」vs「意識的な意図」という対立構造で説明し、常に意図を持ち続けることで、無意識に流されるのを防ぐという、非常に実践的なアプローチです。

2. レスター・レビンソン(創始者)の視点

  • 特徴:形而上学的・絶対的・即時性

  • キーワード: 「確信(Conviction)」、「努力のない思考(Effortless thought)」、「今(Now)」、「Having vs Wanting」

  • 意図の定義: 博士にとって意図とは、努力して維持するものではなく、抵抗が消えた後に残る「静かな確信」です。「思考は現実化する」という原理原則に基づき、「欲しい(Wanting=欠乏)」ではなく「ある(Having=所有)」の思考を持つことを強調します。

3. ヘイル・ドゥオスキン(セドナメソッド)の視点

  • 特徴:心理的・受容的・感情の解放

  • キーワード: 「許可(Allowing)」、「勇気(Courageousness)」、「ヘッドバンキング(頭を打ち付けるような空想)」

  • 意図の定義: ヘイル氏は、意図を「許可する」という柔らかな言葉で表現します。また、ゴールを妄想し続けること(ヘッドバンキング)の弊害を説き、「手放して、今の行動に集中する」ことを強調します。